もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

先生は私の下着に、薔薇の花の刺繍があることさえ知らない

爪を染めるという、ささやかな楽しみ。
私は爪があまり美しくありません。趣味でチェロを弾くため長く伸ばせず、日々の家事による乾燥でとても弱く、すぐ割れてしまったり剥がれてしまったりしてしまいます。

それでも、素敵なポリッシュを見つけたらつい買ってしまうし、憧れのお姉さんや妹からプレゼントしてもらったシャネルやディオールのネイルカラーは宝物。

夜、娘が眠ったあとにフランソワーズ・アルディがNous n'irons plus au boisと歌うのを聞きながら、やすりで整えた爪に冷たい刷毛を滑らせ、小指にふっと息を吹きかけるとき。
気分だけはフレンチロリータなのです。倦怠と退屈と好奇心を持て余し、小さな爪を真っ赤に染める少女のひそやかな悪戯じみた行為を私は愛しています。


と、長々と書いた前置きは、数日前にポリッシュを大人買いしてしまったことへの言い訳です。

こちらは、友人が私に似合いそうと言ってくれた秘めごとネイルシリーズ。

ココ・シャネルやオードリー・ヘプバーンマリリン・モンローなど美しい女性たちを連想させる花言葉を持った花をモチーフに作られたそうで、私は友人が選んでくれた「はなやかな秘密」(ラナンキュラス、ココ・シャネル)、「繊細なこころ」(シラー、マリリン・モンロー)、「きよらかな変化」(カラー、マリリン・モンロー)をお迎えしました。
パッケージのボタニカルな植物画も素敵。


こちらは様々な文学者やその作品をモチーフに作られている羽根ペンネイル。
以前から気になっていて、秘めごとネイルと一緒に思い切って欲しかった色を購入しました。

若草物語より「メグ・マーチ」、「ベス・マーチ」、ジェーン・オースティンプライドと偏見」、そしてJ.S.Bach「チェロ組曲第1番 Gdur」。
メグの優美さやベスの可憐さ、そして物語や音楽そのものを爪にのせるなんて、とてもロマンティック。

時にはみ出てしまったり、よれてしまったり。綺麗に塗れても3日ほどしか保たないけれど。
意味のない、ひそやかな遊戯。
私にとって爪に色をのせるのは、上着を着ちゃうと見えなくなる下着の白い薔薇の刺繍や(太宰治 女生徒)、白い靴下の下に隠した金のアンクレット(山田詠美 放課後の音符)と同じなのです。


─きのう縫い上げた新しい下着を着る。胸のところに、小さい白い薔薇の花を刺繍して置いた。上衣を着ちゃうと、この刺繍見えなくなる。誰にもわからない。得意である。─(女生徒より)