もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

2024-01-27から1日間の記事一覧

月光スコープ Ⅳ半身/或いはSrSO4 mohs3‐3.5

半身/或いはSrSO4 mohs3‐3.5 世界は崩落した。 天の月が姿を消し、世界は色を失い、命あるものたち─ひと、翼あるもの、鱗もつもの、植物に至るまで─は朽ち果てた。暗闇の中ですべてが乾き、静寂の中で塵へと変わる。 硝子の割れた銀縁の眼鏡が、浜辺だった塵…

月光スコープ Ⅲ終末の実り/或いはSiO2 mohs7

終末の実り/或いはSiO2 mohs7 少年の家は海の傍にある。 海はこの小さな村の全ての営みの源だった。 透明な海水は飲水になり、泳ぐ魚たちは村人の食料になり、網にかかる貝が抱きしめる真珠はこの村の特産品として経済を支えた。 硝子のようにすみとおった海…

月光スコープ Ⅱ Mondenkind/或いはSiO2 mohs7

Mondenkind/或いはSiO2 mohs7 満月の夜にだけ、現れる夜店がある。 星のない真っ暗な天幕のような空で、地上をじっと見下す巨大な満月の夜。 あまりにも大きくて、あまりにも眩しいから、月面に刻まれた模様までくっきりと見える。 そこに刻まれているのは、…

月光スコープ Ⅰ魚たちのビオトープ/或いはCaF2 mohs4

魚たちのビオトープ/或いはCaF2 mohs4 ぼくの涙はモース硬度4の小さな結晶になった。 あまりに長い期間溜め込んだから、透明だった涙はぼくのかなしみを吸い込んで菫色に変わっている。 ぼくは結晶を、硝子の試験管に入れた。ちり、と硝子を結晶がひっかく冷…