もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

マイホーム・ナイトシネマ

最近自宅で鑑賞した映画のまとめ。

観たい上映中作品も配信作品もたくさんあるし、読みたい本もたくさんあるし、執筆もしたいし、編み物もしたいし、絵も描きたい。夜が一日に一回じゃ足りない、と日々思っている。

 

2.17

■汚れなき情事

 

イギリスの片田舎、少女たちの寄宿学校。憧れの存在である女教師ミスGとそれを取り巻く女子生徒達の間に1人の転校生が入って来たことで亀裂が生じ、やがて悲劇が…というあらすじ。

 

家庭に帰ることが出来ない少女たちの寄宿学校というロケーション。先日ブログに書いた理瀬シリーズもそうだが、このロケーションは私が一番好きなもの。

満月の湖に裸で飛び込むナイトスイミング。「一番大切なのはdesire!」の言葉とともに跳ぶトランポリン。

閉ざされた世界は思慕と憧憬と絶望が微熱のようにまとわりつくユートピア。そこに現れた一人の少女がいれたヒビ(原題はCRACKS)によって始まる悲劇。

情緒不安定で不穏な物語。

でもそここに少女的なフェティシズムのモチーフが散りばめられていて、一つ一つのシーンが美しい。どことなく小公女セーラを連想させるフィアマや、オフィーリア或いは人魚姫などラファエロ前派の絵画めいたスイミングシーン、ミス・Gを崇拝する主人公ダイの頑なな眼差し、聖アグネス前夜の宴で男装姿で舞い踊る少女たちの酩酊の眩しさと危うさ。

 

なによりミス・Gのエヴァ・グリーンが素晴らしい。

憧憬の眼差しを受けていた彼女の芝居じみた口調や煙草を咽む姿は確かに魅力的。けれど物語が進むに連れ、彼女の振る舞いは胸が苦しくなるようないたたまれない気持ちにさせる。

フィアマに執拗に告げる「あなたと私は似ている。だから共有しなければ」ということばが切実で、哀しい。

やがて一人の少女の死によって彼女たちの楽園は崩れ去り、ダイはそこから脱出する。

たちの悪い微熱と悪寒の中で見る夢のような、うつくしければうつくしいほど苦しい作品。

何年も前に敬愛する方が乙女ノワール映画と紹介されていたのがきっかけでこの作品を観たけれど、まさに言い得て妙だと思う。

決して後味の良い物語ではないけれど、時おり憑かれたように無性に見返したくなる映画の一つ。

 

2.22

エルミタージュ幻想

 

お友達と話していて久しぶりに観たくなった作品。

エルミタージュ美術館で、3世紀にわたるロシア近代史を映画史上初の90分ワンカットの手法で描いた作品。

現代に生きる映画監督と、19世紀のフランス人外交官が、幻想と現実の区別もつかないままエルミタージュ美術館の中をさまよう…というあらすじ。

 

ロシアの歴史には明るくなくて元舞台オタクらしくアナスタシアとエカテリーナの時代だけやたら詳しいという私。この映画を観るたびにロシアの歴史について勉強しなくては…と思う。

90分間、夢と現の狭間のような旅に誘われて、夜、ぼんやりとした明かりの中で観ているとなんとも不思議な心地になる。

歴史という記憶の高揚感と浮遊感が走馬灯のように流れていき、美しい美術品と華やかな舞踏会の後、夢から醒める。

─私たちは永遠に泳ぎ永遠に生きるのです

という台詞で締めくくられる映画は、一匙の寂寞を残す。作中語られるロシアへの政治的な皮肉は、現在のロシアのことを思うと深いため息が出てしまう。

とはいえ、作品としては素晴らしく、この目眩く幻想に身を委ねるのは癖になる。

お友達と同じ時間に各々鑑賞していたので、離れた場所で同じ夢を見ているのも楽しかった。

ぼんやりと、揺蕩うように鑑賞する映画というのも好きだ。

 

 

この三連休は配信されている観たい作品を消化するつもりだったのに、エルミタージュの幻想にあてられたのか発熱や頭痛に苦しんでしまう結果になった。

寒暖差や気圧が厳しい2月の終わり、みなさんもどうぞお気をつけて。