もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

最近の短歌

天使になりたかった少女のtanka

 

・泥濘に落ちた花びら骨に刺し開かぬ扉に叫ぶ信仰宣言(クレド)

・祈祷のたびに抜ける落ちる羽根 天には届かぬ「かみさま」の音

・おやすみ砕かれた翼骨のうえ 間違った世界を揺籃にして

・かつて神に焦がれた少女が統べる楽園にかつて少女だった神が在り

 

 

不眠のtanka 

 

・指先でぷつりと押し出す白い星 眠れぬ夜のシーツにシリウス

・噛み切った三日月の爪に鼻先寄する空腹の獏の数をかぞえて

・ひとりだけ夜の底におとされた茨姫 伸ばした手のひら月光にひたす

・月の見る夢のなか 乾いた眼窩にアンタレス嵌め

 

人形になりたかった女の子の主を失って人間になってしまった人形のtanka

 

・リューズもリボンも巻かれぬかろき身体に包まるる生命がいま瞠る

・天へ還った少女に代はり地に孵る少女 球の関節もすべらかに

硝子の瞳孔に夜を映し流るる涙が肋骨を濡らす

・飛ぶには重く墜つるには柔い両脚にリボンを巻いて旅立つ少女の背中にリューズは在らず

 

 

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