もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

読書記録

川野芽生『月面文字翻刻一例』

 

川野さんの言葉の美しさにはいつも酔わせられる。

ひたひたと滴る透明な水。呑み下すとゆっくり身体に廻り、それはやがて手足を痺れさせ、呼吸を苦しくさせるのに。そのさなかに姿を現す幻影があまりにも蠱惑的で、また、もっと、と求めてしまう。ゆうるりと、侵されていく。そんな心地になる言葉と世界と物語。

 

創造、崩壊、終焉。月や角、翼、眠り、夢…窒息しそうになるくらいうつくしいモチーフたち。

薔薇と月の庭の幻影『遠い庭より』、夢見る力を失った兵士の『シメール、帰還兵』、天使が墜ちてくる街の『蟲科病院』が特に好きだった。

どこか硬質で、澁澤龍彦がいうところの“幾何学的精神”のある幻想文学

川野さんの著作はまだ何冊か積んでいるので、ゆっくりと楽しみたい。

若手の作家さんでは川野さんと雛倉さりえさんは常に追っている。読むたびに呑み込まれ、打ちのめされて、そして充足のため息が漏れてしまう作家さんだ。

 

服部まゆみ『この闇と光』

 

何度目かの再読。服部まゆみさんは『シメール』をもう諳んじる事ができるくらい繰り返し読んでいるけれどこの作品も大好き。

残酷なほど鮮やかな世界の反転に毎回息を呑む。

タイトルの闇、光が指すのは現実なのか虚構なのか。フェティッシュ的セレクトの絵画、文学、音楽で飾られたユートピアの描写が没入感を高めてくれる。

刹那のひとときである少年少女に永遠を求めてしまう愚かさ、哀しさ、残酷さ。そしてその背徳感。

甘やかな疼きを確かに感じる私もきっと“ムーンレイカー”(ばか者)かもしれない。

 

 

少しばかり耽美に傾倒した1月の読書記録。