もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

いちねんのおわり。

気づけば年末。

この場所には、頻繁に顔を出すときもあれば、しばらく覗かず忘れた頃にやってくることもありました。

ブログは何年もやっていたけれど、ここで再び綴ろうと決めてから、日々の記録というよりももっとプライベートな、心の裡や大切な宝物について言葉にするようになっていたので、なんというか、きちんと真摯に綴りたかった。

そうすると、そう頻繁に落ち着いて文を書くという時間が取れないので、1年でたった23記事しか書けなかったようです。

 

日々のことは写真と短文で済む手軽なSNSに投稿しがちで、それはそれで楽しいし自分のための記録にはなるけれど。ふと、楽しかった日の心の動きや空気の質感、それに誘われて思い出したことなんかは忘れてしまっているから、やっぱりここである程度まとまった文章でもう少しこまめに記録しておけたら良かったなあ。なんて、年末年始はいつも同じことを考えていますね。来年こそは、きっと。

 

というわけで今日は、今年の総括。

今年出逢って嬉しかったもの、ことリストを書いていこうとおもいます。

 

 

 

□出逢って良かった本□

 

ハン・ジョンウォン『詩と散策』

日下明さんの装画に惹かれて手に取ったこの本、詠み始めたらもうたまらないほど素敵で。

ゆっくりと、言葉一つ一つを大切に拾いながら長い時間をかけた読んだ一冊。

この本の中にあるのは静謐と、深い孤独。

でもその孤独は決して自嘲的でも諦観的でもなく、ひたすらに深くひたすらに澄みとおった孤独。

雪の日の静寂に耳を澄ますような。蝋燭の灯火がつくる陰の輪郭を見つめるような。そんな種類の静けさと孤独が、美しい言葉で綴られた傑作。

この本と出会えたことをなにかに祈りたくなってしまう。それくらい、出会えて良かった一冊でした。

 

 

 

□出逢って良かった映画□

 

ドット・フィールド監督

ケイト・ブランシェット主演『TAR/ター』

 

正直、この映画について私が感じた胸の衝撃をまだ言語化することが難しいのです。

でも観たその日に、同じ世界を愛する友人たちに「これは私が今年観た映画の中で必ず1位になるまぎれもない傑作だから観てほしい」と詰め寄ったほど、素晴らしい作品。

なので、観た日に書いたメモをここに貼り付けようと思います。

ちなみにTARはアマゾンプライムにて配信中。冬休みに何か観たいなと思っている方は是非ね。

 

 

─以下TARを観た日のメモより

 

 

 

・芸術や美を創り出すことが神に近づくことだとしたら。そもそも神というのは支配するもの。

権力(パワー) を得て、神の所業を成したものに待つのは失墜、なのは神を模倣した人間への罰なのかしら。

権力を振りかざす者にジェンダーもマイノリティも関係がないのが面白い。

 

・リディア・ターの精神世界や印象的な「音」の演出、マッサージ店のシーンは悪趣味なほどえげつないし、賛否両論の話題のラストシーンは私は非常にシニカルに感じた。権力構造への、そしてクラシック至上主義の業界への冷たい一石。

 

・ケイトの流暢なドイツ語や指揮振りも素晴らしく、ジュリ アードでの講義の長回しシーンはすべての台詞をメモしたかった。

 

・観るたびに、抱く感想が変わりそうだし、どの視点で観るかによっても違った想いを抱きそう。

 

・私は特にクラシック音楽の世界の片隅で生きているので、この業界の性差や権力圧力については色々思うところがある。初見の今日はリディア寄りの視点で観ていたと思う。言及したいところ、考察したいところは沢山あって、まだ噛み砕き中。ずっとマーラーを聴いている。

 

・完璧だったリディア・ター帝国を崩れさせる一つのきっかけになる人物がチェロ弾きというところが興味深い。

以前からチェロという楽器の魔性について考えている。 どことなくセクシャルなフォルムの楽器(それを後ろから 抱き締める形で弾くのだ)、一番人の声に近いと言われる音色。

 

マーラーとベニスに死すのアッシェンバッハ。

ドイツ語セリフに字幕はついてなかったけれど、5番のAdagettoのリハの際「ヴィスコンティは忘れて」的なセリフをリディアが言う。

アッシェンバッハとリディアのリンクについて。

 

・ラスト、あの場所であの曲のタクトを振るリディアを「 失墜」と表現するのか否かについて。

それこそ音楽の世界の権力構造へのアンチテーゼのような終わり方。リディアは確かに全てを失った。けれどあの終わりを失墜と表現することにも、希望と表現することにも、私は違和感を覚える。今後、考察していきたいと思う。

 

 

 

□出逢って良かった舞台□

 

NBAバレエ団『ドラキュラ』

英国ロイヤルのプリンシパルの客演で話題だったけれど、私はNBAの刑部さんの公演を。

最近はバレエを踊ることと決別し、観ることにも積極的ではなかった娘が珍しく「これは観たい」と言ったこと、私自身も前公演でチケットが取れなかったこともあって気合を入れていざ観劇。

 

あまりにも素晴らしすぎて、たいへん耽美な夢を見ているのじゃないかと思うくらいだった。

刑部さんのドラキュラはとても冷徹で高潔でノーブル。けれど、時おり入る人外じみた振り付けが首元に冷たい息を吹きかけられた心地で肌を粟立たせて。

演劇的要素や舞台美術や音楽も新鮮で、ゴシックで耽美な世界に魅了されるあっという間のひとときでした。

 

男性二人のPDDはぞっとするほど妖艶で恐ろしく美しい。

個人的にルーシーの変容シーンもとても好みでしたし、三幕のサバトじみた冒頭はもう私のゴス魂が震えてしまったもの!

ラストは原作や映画それぞれ解釈が異なるのだけど、バレエ版はこうかな…と私なりの解釈を噛み締めながら帰宅した思い出。

来年もあるなら絶対にまた観に行こうと決めているバレエです。

 

 

 

□今年出逢って良かったもの□

 

keino glassさんのガラスのオブジェ。

keinoさんの作品との出会いはもう随分前で、これまでに小さな器をお迎えしたこともありました。

けれどオブジェ作品は初めて。

今月、私のサンクチュアリのようなギャラリーで行われていた個展にお邪魔したときに、運命の出会いをしてしまいました。

 

まるで教会のようなギャラリーに灯されたガラスオブジェのひかりたち。

ひとつひとつのオブジェは、手のひらに乗るくらいのサイ ズなのにその硝子の中に広がる世界の奥行きにひたすらうっとりと鑑賞させていただきました。

 

森の中に佇む動物たち、天使、旅人。聖なる十字架。羽ばたく鳥。どこへ繋がっているのかしら…と想像したくなる階段。どの作品も、今にも物語が始まりそう。

 

見る角度や灯りの色が変わると、物語の表情が変わるのも魅力的。

ひそやかで硬質な空気を揺らさないように、そっと鑑賞す ればするほど、硝子の中の世界に深く入り込むような心地になって。

繊細で静かな美しさに胸がぎゅっと締め付けられて。

そう、涙がこぼれてしまうくらい、ほんとうに、ほんとうに、美しかった。

 

keinoさんの作品の世界に没入するひとときは、祈りの時間や、深い思索の時間にも似ている気がします。

胸の中に、 こんなふうな静かな森や聖なる祈りの家を持っていられたら。

 

そんな想いと共にお迎えしたのが写真のオブジェ。私の写真では魅力の半分もお伝えできないけれど。

冷たいガラスの質感は、ひそやかな森がいだく湖の水。気泡は天から指す光。遥かな場所に続く階段。羽ばたく鳥が、私の心を導いてくれますように。

宝物です。

 

 

 

□出逢って良かったもの、その二□

アプリゲーム『魔法使いの約束』

 

私のSNSをフォローしてくださっている方はご存知かと思いますが、私はオタクです。

所謂ソシャゲはアイドリッシュセブン、ツイステッドワンダーランドをメインに現場、グッズ、二次創作としっかりがっつりオタクとして日々を生きています。

 

そんな私が「絶対に好きなの分かっているから手を出さないぞ」と決めていたゲームをついにインストールしてしまったのは今年の夏。

想像していた以上に、愛しい世界がそこにありました。

 

私は、物語がすき。そして上に書いたようにオタクです。

けれど、ずっと「物語はなんだかんだ、小説が至高」と思っていました。

映画や舞台やゲームやアニメ、物語はたくさんあるけれど、小説にはやはりどれも劣る、なんてね。そんな私を今では恥ずかしく思っています。

 

魔法使いの約束の魅力は今更私が語らずとも広く知られていますが、もちろんアプリゲームとしての楽しさやキャラクターの魅力もありますが私は何よりその物語に強く強く惹かれました。

これまで読んできて、大切に抱きしめて、私の人生に寄り添ってくれている物語と同じ場所に、まほやくの物語が置いてあります。

これって小説至上主義だった私にはちょっと革命的なことなのです。

 

好きすぎて、大切すぎて、そう簡単には語れないくらい、そんな物語と出会えてとても嬉しい。

教えてくれたお友だちたちに大感謝です。

 

 

 

 

以上が私のヒットリスト。

これ以外にも今年は少女の頃から大好きだったひとのライブに初めて行き、ひたすら彼の歌声に浸る一年でもありました。

それについて綴ったエッセイはこちら→https://jardindelis.hatenablog.com/entry/2023/09/18/180802

 

 

それからたくさんの人に会って交流を深め、それと同時に私の心の翳りになるようなひととの関わりを断ってきたのもたいせつなこと。

 

そしてたくさんの物語を綴ったこと。絵を書き始めたこと。それについてたくさんの嬉しい言葉をいただいたこと。

 

こうして書き連ねていくと、幸福なことばかり。もちろん、困ったことや嫌なこともあったけれど、そういうことはすぐ忘れちゃうので私ってば生きていくことに向いてるなぁなんて思います。

 

 

普通、とはちょっとズレた人生を送っているけれど、心のままに、愛するもののためにこれからも生きていきたい。

そしてそう生きるための覚悟と責任から逃れずに、それでもときめく道を選んでいきたい。

そんな私と仲良くしてくれる方にたくさんの愛を贈ります。

来年もどうぞ、お互い健やかにね。

 

またここで、お会いしましょう。