もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

秋のレシピ

11月がきた!

 

突然ですが、私には秋のレシピがあります。カレンダーをめくってNovemberの文字をみたらもう、嬉しくなって秋の楽しみを集めた頭の中のレシピをひらくのです。

といっても秋が特別好きというより、冬が一等好きで、その冬の予感をはらんだ秋の空気に触れて、いても立ってもいられなくなるという感じに近いかもしれません。

 

そんなわけで、今年も浮き足立つ11月が始まりました。今日は私の秋のレシピをすこし紹介。

 

まずはこれ。

秋のニューヨークから始まる映画『ユー・ガット・メール』を観ること。

ストーリーは、インターネットのチャットで知り合った男女がついに直接会う約束をするものの、実は仕事のライバルで…というまあ在り来りなラブロマンス。はっきり言って私はこの映画のロマンスの結末には納得できていません。母の代から大切に商っていた絵本と児童書のお店を潰され、その相手と知りながら惹かれるなんてあり得ない!と最初に観たときから今までずっと思っています。

それでもこの映画が大好きなのは、なりより散りばめられたモチーフのディテール。

物語の冒頭、二人がやり取りするメールの文面がまずとっても良い。

鉛筆の花束を買いたくなる秋のニューヨーク!素敵すぎる。

メグ・ライアン演じるキャスリーンのお店『街角の店』のウィンドウディスプレイや自宅のインテリアもとても可愛い。

ハロウィン、クリスマスの雑貨、そして絵本や童話に出てくるキャラクターたちのぬいぐるみが飾られていて、あたたかく素朴で、ほんの少しの少女趣味のエッセンスが魅力的なのです。

このお店は時おり『お話の会』と称して店主自らが子供たちに絵本の読み聞かせをする会を開いているのですが、もし近所にこんなお店があったら足繁く通ってしまうのに!

 

好きなシーンやセリフはほかにも沢山。

「男の人ってみんなゴッドファーザーが好きよね」「女の人はなんでみんなジェーン・オースティンなんだ?」という嫌味の応酬も愉快だし、クリスマスのウィンドウ越しのジョニ・ミッチェルは胸がぎゅっと切なくなる。

キャスリーンの母とのエピソードはどれも優しくて、何度見ても涙がこぼれてしまうし(赤毛のアンを買った少女にこれを持って読みなさいとティッシュを渡す児童書専門店の店主なんて素敵すぎる!)

そんな母の強さと本への愛を継いだキャスリーンが、恋の相手であり、憎きライバル店の店主であるジョーの店でノエル・ストレッドフィールドの『バレエシューズ』について答えるシーンもほんとうに大好き。

 

今、私がこうして書き連ねたエッセンスの中に好きなものがあったひとは是非見てほしいのです。

私は11月になるとこの映画を観て、その後にキャスリーン風のトラッドな装いに着替えてウキウキとスターバックスキャラメルマキアートを買いに行きます。そこまでが秋のレシピその一。

 

つづいて秋のレシピその二。

高楼方子さんの『十一月の扉』。高楼方子さんの本については過去の記事《夏の課題図書のおはなし》でも登場しましたが、つまり私の日々の暮らしと季節の楽しみに寄り添ってくれる物語が多いということ。

春には小公女セーラに導かれた少女たちの物語『緑の模様画』を。夏には過去記事で紹介した『時計坂の家』を。秋にはこちらの『十一月の扉』。冬は…それはまた今度、その時期に紹介させてね。

 

『十一月の扉』は、主人公爽子が《十一月荘》という名の素敵な下宿を双眼鏡で見つけるところから始まります。

ナナカマドの実の赤みが深まるころ、爽子は中学生ながらたった一人でこの十一月荘に下宿するのです。

 

あらすじはネタバレになってしまうので伏せますが、赤毛のアン若草物語を愛した人なら、爽子の下宿する部屋の描写にまずときめくはず。

花柄のカーテンがかかった出窓に、造り付きの本棚、ライムポトスの鉢。こじんまりとした自分ひとりの部屋。

中学生の少女がマグカップ片手にこの部屋に入れば、たった一人きりになれるなんて、爽子とおなじ年齢の時に読んだら羨ましくて仕方なかったと思います。

 

爽子がこの下宿で過ごす数ヶ月が描かれた物語は、下宿に暮らす他の女性たちも魅力的で心の自立の仕方が素敵。

ほんのりとした恋の描写もあるのですが、その相手の男の子も心の中に‘自分ひとりの部屋’を持つひとであるのがひしひしと感じるのも良いのです。(たのしい川べを知っている男子中学生なんて!)

 

異国のにおいのする文房具店ラピス、そこで買ったドードー鳥の描かれたノートに綴るおとぎ話、ダッフルコートとミトン、冷たい北風とあたたかい部屋、ピアノの音、たっぷりの紅茶。

そんなものに囲まれて、書くこと、読むこと、夢見ることを愛し、憧れる少女がときに傷ついたりしながらも成長していく秋のお話。

 

物語が好きで、‘自分ひとりの部屋’或いは‘秘密の花園’を心の中に持っている方だったら。きっとこの物語の虜になると思います。

 

私もさっそく何度目か分からない再読をして、たくさんの付箋を挟んでいっているところ。

ここを読んでいるだれかが、この物語を愛してくれたらとっても嬉しいです。

 

 

 

さて、秋のレシピリストはまだまだたくさん。

例えば─ベージュのギンガムチェックのレジャーシートとお気に入りのぬいぐるみ、本、スケッチブックを持ってピクニックにいくこと。

そこで拾った木の実や松ぼっくりはリースづくりの材料にします。

 

例えば─秋薔薇の香りを胸いっぱい吸い込みにいくこと。秋の薔薇はほんのすこしセピアな趣があってとてもロマンティック。お土産に、薔薇の花びらの紅茶を買うことも忘れずに。

 

例えば─美術館に行くこと。暖色に染まった木々がきれいな晴れた日でもいいし、冬の予感を強くする雨の日でもいい。けれど、とにかくのんびりと鑑賞すること。途中、展示室に設置された休憩用のソファに座ってぼうっとするのが大事。

もしかしたら、絵の中のだれかが私をじっと見つめているかもしれない。

 

 

とはいえ、なにかと忙しくしていると気付けばピクニックには寒すぎる気温になっていたり、薔薇が散ってしまったり、行きたい美術展は長蛇の列…なんてことも多々あるのです。

そんなときのために、手軽なレシピも用意しておきます。

 

─いつもよりあたたかい飲み物を充実させること。ミルクは切らさずに、シナモンやスターアニスがあったらちょこっと嬉しくなる飲み物がつくれるかも。

 

─とっておきの肌触りのブランケットと靴下を用意すること。秋の切なさにあてられた夜のため。

 

─大好きなテディベアを抱き締めて眠ること。

 

などなど。

気を抜いたらふわりと通り過ぎてしまう季節が秋だから。レシピを片手に、できるだけ秋のにおいも質感も、抱き締めるように過ごしたいなと思いつつ、この記事を書きました。

 

あなたにも、秋のレシピがあったら、こっそり教えてください。