もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

コット、はじまりの夏

2.16

《コット、はじまりの夏》

友人と大好きなシアター、新宿シネマカリテにて鑑賞。

大家族の中で育ち、家族といても孤独を感じていた9歳の寡黙な少女コット。(父親はギャンブル依存症だし、生活は困窮していて、両親共にネグレクト気味の家庭だ)

そんな彼女は、夏休みに預けられたアイリン、ショーンのキンセラ夫婦のもとで優しさと愛情に包まれ、初めて自分の居場所を見つけていく。というあらすじ。

 

どうしようもない悲しみと痛みを伴いながらも、光の射す物語だった。

台詞やストーリーで多くを語らずとも、心の繊細な動きが描かれているところが素晴らしくて静かな空気感にすっと引き込まれる。(ちなみに英題はThe Quiet Girl)

アイルランドの長閑な自然が美しく、水の冷たさや空気のなかに含まれる緑の香りが感じられるようだった。

忘れられないシーンは沢山ある。

例えば、コットが初めて井戸水を飲むシーン。まるで枯れかけた植物が新鮮な水を得て再び瑞々しさを取り戻すさまのようで、これからのキンセラ夫妻との日々を予感させて美しい。

それから、きっとコット自身も気付いていなかった“速く走ることのできる長い足”。作中繰り返される木漏れ日のなかを駆けるコットの姿は本来の9歳の少女らしい伸びやかさがあっていつまでも印象に残った。

 

過剰なハートフルストーリーになりすぎていないところも良い。

アイリンは亡くなった息子のものだと伝えずに部屋や洋服をコットに与えていたし、ショーンはコットを怒鳴って叱る。キンセラ夫妻とコットに向けられる外部からの心無い言葉や不躾な好奇心はとてもリアリティがあった。

キンセラ夫妻に引き取られることもなく実家へ戻るコット。コットの両親や家庭環境が劇的に改善されることは多分無いだろう。そんなそれぞれの弱さや愚かさ、不器用さ、不甲斐ない現実を正直に描きながらも、沈黙の時間のなかに確かに存在する優しさがじんわりと心に沁みていく。

 

邦題にはじまりの夏、とついている。このひと夏、コットに差し出されたやさしさやぬくもりが、きっと彼女の心にいつまでも灯る光となるだろうと信じたくなるラストシーン。

なんだかすごく綺麗な涙を流したような気がする鑑賞時間だった。

 

 

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映画の後友人から、お誕生日プレゼントをいただく。

手作りのローズアップルパイ。お針子であり、パティシエールである彼女のアップルパイは甘さ控えめでとっても美味しく、娘と一緒にぺろりと食べてしまった。

魔法使いの約束のクリスマスのイベント『雪降る街のプレゼント』が大好きで、ミスラのスノードームのエピソードをずっと繰り返し語っている私へ、雪降る街のプレゼントのスカーフも贈ってくれた。シックな色合いと、ストーリーにちなんだモチーフが可愛くて眺めているだけで幸せになる。

 

この日はバタバタでお互い映画で流した涙がまだ目尻に溜まった状態で別れたのだけれど、近いうちにまた会いたいなと思う。

伸びやかで朗らか、うたうように生きている彼女(まさに西の魔女だ)から、いつも元気をもらっている。