もりとみずうみ

さみしさのやさしさ、いとしさについて。

poor things

 

2月1日。

前日のライブの余韻抜けきらぬ身体のままバレエのレッスンを受け、映画館へ駆け込む。

観てきたのは『哀れなるものたち』。

─天才外科医によって蘇った若き女性ベラは、未知なる世界を知るため、大陸横断の冒険に出る。時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚くべき成長を遂げる─

公開前からその映像美や衣装、物語のテーマ等で話題だったけれど、まさに傑作だった。

妊娠、自殺、性行為、売春などの描写があるので誰にでも観て!!と気軽には言えないものの、あの子は、あの人はきっと好きだろう。どんな感想を抱くのだろう、なんて考えてしまう。

男性優位社会から成るイデオロギーや欲望の中を、知識と経験と自らの選択で駆け抜けていくベラ。女は女なのではない。人間なのだと心震える。

目眩くアートのような色彩の映像も、役者陣(最高のキャステング!)の演技も凄まじい。

従順で無知であることを女性性と賛美する社会の醜さ、各々の倫理観やエゴ。一人の人間としての権利と選択の自由を自らの手で切り開いていくベラのパワフルさ。ラストのユートピア的描写もシニカルで、鳥肌だった。

観れて良かった。

 

 

以下ネタバレ有りの感想なのでご注意。

 

 

 

 

 

私は、“彼女”を創り上げたひとたち(彼女にとって創世神であり親でありメンター)をやがて“彼女”が凌駕していく話がとても好きだ。

ベラは親が彼女のために用意したユートピアを飛び出し、自ら見て考えて選択したのち、またこのユートピアに戻ってきて、かつて彼女を創った親と同じ職になることを望み、彼女がされた手術と同じものを彼女の夫だった人に施す。自らの選択によって。

美しい庭で仲間たち(社会主義思想と出会わせた友人、彼女の出自と冒険をすべて知る現夫、彼女と同じ人造人間のフェリシティ)と談笑するシーン。

連鎖の呪いを示唆してるのだとしたら穏やかな美しさが、ぞくりとする。

原題のpoorはだれを、なにを指しているのか。

もう一回観に行きたいし、観るひとによって抱く感想や解釈が大きく変わる作品なので観た方は是非私とおしゃべりしてほしい。

 

昨年観た『TAR』もそうだったけれど、“もっていかれる”作品に出会うと、心臓に鳥肌が立つ。

おそろしさとおぞましさと美しさの境界線はどこなのだろう。